― 静かに感じる人の、心呼吸する哲学 ―
序章+12章を書き終えて
この文章の裏付けになる内容などを「心呼吸翻訳ノート」にまとめています。
あとがき
この本を書こうと思ったのは、自分のためだった。
自分自身と改めて繋がるために。
そして、もしかしたら同じように感じている人がいるかもしれない。
だとしたら伝えたいと思った。
これを読んでくれているあなたに。
自分自身の輪郭がよく分からず、
人のことはよくわかる。
誰かの小さな声を拾えるあなたに。
僕は幼い頃から、感性が鋭かった。
周りの空気を読みすぎて、
言葉にならない何かを感じすぎて、
生きることが、少し重かった。
父を早くに亡くした。
母は、働き詰めで、心と体を壊した。
僕は、 父のような人を減らしたい、
そう思って、製薬会社に入った。
でも、そこで待っていたのは、
理想とは違う現実だった。
社会人になってから、
その感性を殺すことにした。
感じることが苦しいなら、
感じない方がいい。
心を麻痺させて、
死んだように生きた。
「これが人生なんだ」
そう思い込むことで、
自分の感性を、邪魔者にした。
自分の声が、嫌いだった。
それは、声が嫌いなのではなく、
自分が嫌いだったんだと、今ならわかる。
自分の感覚と、
やっていることの不一致。
その裂け目に、
僕は長い間、立ち尽くしていた。
やがて家族を持った。
子供たちには、 自分と同じ思いをさせたくなかった。
だから、独立した。
でも、その先で、理不尽な別れがあった。
祈ることしか、できなかった。
子供たちがいない苦しみよりも、
つらいことはなかった。
心が死ぬという感覚を、
僕は知っている。
それでも、祈った。
子供たちの幸せを。
一緒にいられなくても、 離れていても、
幸せでいてくれさえすれば。
その祈りが、 僕を生かした。
それから、ひとり親として10年。
独立と、その歳月が、
僕の感性を研ぎ澄ませた。
内向性を、思い出させた。
仕事は上手くいっていた。
営業も長かったから、
話すのも得意だった。
でも、どこかに
「自分を持っていない」という感覚があった。
どんなにうまくいっても、
満足できなかった。
生きづらい人生だな、
もっと何も考えないで生きられたらいいのに。
そう思いながら、生きてきた。
「誰にも僕の言葉なんて届かない」
そう思っていた。
でも、確かに、いた。
「あなたの声、好きだよ」
「あなたの文章、好きだよ」
「会った時の印象と、文章が同じだね」
そう言ってくれる人たちが。
ああ、ようやく届いたんだ。
だから、僕は書いた。
自分のために。
その人たちのために。
そして、
いつも僕のことを思ってくれている
子供たちのために。
この本は、その静けさの中から生まれた。
感性を殺して生きてきた人へ。
自分の声が嫌いだった人へ。
言葉にならない何かを抱えている人へ。
あなたは、壊れていない。
ただ、 深く呼吸しているだけ。
自分を取り戻す。
自分らしい呼吸をする。
自分のペースで。
それは、誰にでもできる。
どこからでも、始められる。
この本を書きながら、
何度も立ち止まった。
「これは誰のための本なのか」
「何を伝えたいのか」
でも、最終的に残ったのは、
難しい理論でも、複雑な技術でもなかった。
ただ、呼吸。
深く吸って、 ゆっくり吐く。
それだけだった。
この本が、誰かの静けさを、肯定できたなら。
誰かの深さを、欠陥ではなく、
ひとつの美しさとして伝えられたなら。
それだけで、十分。
深く吸って、 ゆっくり吐く。
この呼吸の中に、 あなたがいる。
心の赴くままに、自由に、軽やかに。
2025年 Atsu
参考著書
この本を書くにあたって、
多くの本に助けられた。
良書ばかりなので、
もし興味を持てたなら、
ぜひ読んでみてほしい。
スーザン・ケイン『Quiet:内向型人間の時代』
(原題:Quiet: The Power of Introverts in a World That Can’t Stop Talking)
内向型の人の特性(深い思考・慎重な判断・独自の創造性)を社会的価値として再定義した本。
「外向型であることが成功」とされる文化に対し、内向型の強みを提示。
エレイン・アーロン『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』
(原題:The Highly Sensitive Person)
HSP(Highly Sensitive Person)という概念を提唱した心理学書。
繊細さ=欠点ではなく、深く感じる力・直観・洞察力の源であると解く。
カル・ニューポート『大事なことに集中する』
(原題:Deep Work)
「深い集中(Deep Work)」を人生と仕事の質を高めるコアスキルとして位置づけた本。
SNS・マルチタスクの時代における“静かな集中力”の重要性を説く。
ティク・ナット・ハン『怒り』
(原題:Anger: Wisdom for Cooling the Flames)
ベトナム禅僧ティク・ナット・ハンによる“怒りとの共存と変容”の書。
「呼吸」「気づき」「慈悲」を通して、怒りを理解と静けさに変える。
これらの本に出会わなければ、
この文章は生まれなかった。
それぞれの著者の言葉が、
霧の中で灯りのように、
僕を導いてくれた。
この場を借りて、
静かに感謝を伝えたい。
謝辞
この文章を書くことを、支えてくれた人たちへ。
静かに見守ってくれた人たちへ。
そして、何より、
このページに辿り着いてくれたあなたへ。
ありがとう。
あなたの呼吸が、
誰かの呼吸を整える。
あなたの静けさが、
世界のどこかで、
誰かの朝をやわらかくする。
深く吸って、
ゆっくり吐く。
その呼吸の中で、
また会いましょう。
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